んで書いただけです作品

氷に秘めた殺意

「早く大きくなあれ」
 窓の外を見ながら女はつぶやいた。
 彼女の視線の先にあるのは、小さなつらら。
 この地域では、例年の最も寒い時期になるとつららの大きさも二十五センチにはなる。
「計画を実行できるのは、今年の冬が最後なんだから」
 つららを見つめる女の瞳には熱いものがこもっていた。
 彼女は一つの殺人計画を立てていた。
 ターゲットは橋良香里。
 香里とは偶然知り合った。財布をすられて困っていた女を助けてくれたのが香里だった。話しているうちに気があって、仲良くなった。 いや、仲良くなったと思っていたのは女の方だけだったのかもしれない。二人の距離が近づくにつれ、香里は女のことを利用するように なっていた。
 そして、極めつけは半年前。
 恋人を香里にとられた。プロポーズされて、お互いの親に報告したら、正式に婚約者となるはずであった彼を。
「今度、結婚するから」
 嬉しそうな、そしてどこか人を見下すような表情の香里。それから「式が済んだら彼と一緒にドイツへ行くの。あなたとも会えなくな るわ。淋しいわね」とつけ加えた。
 そんなの知っている、と女は思った。彼は四月からドイツで勤務することになっていた。だから、プロポーズされたのだ。
 あの時の彼女の話を聞いた時の、女の煮えたぎるような怒りを誰が理解できようか。
(香里に幸せな思いをさせない。香里を絶対にドイツに行かせないんだから)
 女の心に芽生えたのは殺意。
 女は計画を練った。もともと、女と香里に接点があることを知っている人はいないはずだ。彼ですら知らないのだから。ならば、 いかに現場の証拠をなくすかが、重要になってくる。
 考えを巡りに巡らせ思いついたのがつららだった。
 温かい室内で刺せば、すぐに凶器はなくなる。指紋対策には革の手袋をはめればよいだろう。あとは女の姿を第三者に見られない ようにすれば問題ない。
 これで万が一女に容疑がかかっても、証拠がなくなる。女はほくそ笑んだ。
 女はもう一度つぶやいた。
「早く大きくなあれ」


 この時の彼女は知るはずもなかった。
 二〇〇四年一,二月が暖冬となることを――……。


 包丁でとっとと殺れよ。
 このツッコミで、作者と読者の気持ちが一体になったような気がします。
 季節はずれ企画「こおる」不参加作品。ある方に冗談で「つらら殺人」書いてくれと言われたので、遊んで本当に書いてみたのです。 非常に時事ネタ(?)な上に、当然企画参加できるわけもなく。馬鹿がここに一人いますよ〜。


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