ぼくが学校から帰ってくると、お母さんはいつも台所で夕ごはんを作ってる。
うしろから「ただいま」って言うと、お母さんは一どふりかえって、「おかえり」って言ってくれる。そのあとは、またやさいを切ったり、何かをにたりしている。
ぼくはお母さんのせなかに向かって、その日にあったことをしゃべる。先生のものまねとか、きゅう食にすきな鳥のからあげが出ておかわりしたこととか、となりの席のムカつく(って言うとお母さんはおこるけど)女子のこととか。ぼくからはお母さんのせなかしか見えないけど、この時間が大すきだ。時どきお母さんが、かたをたたいたり、首を回したりしている時は、夜にかたたたきをしてあげると、すごくよろこぶんだ。
でも、その日はちがった。
ぼくが「ただいま」って言ったら、いつもみたいにやさいを切りながら「おかえり」って言ってくれたけど、こっちを見なかったんだ。それに、せなかがまるまって、いつもより小さく見えた。
「お母さん、ないてるの?」
お母さんはタオルで目をふくと、やっとぼくを見た。
「ちがうのよ、タマネギ切ってたらなみだが出ちゃって」
困っちゃうわねえ、ってわらってたけど、お母さんの様子はなんだか変で、台所にいちゃいけない気がしてすぐにじぶんのへやに行ったんだ。
その日の夕食はからあげだった。
「ひさしぶりに作ったから、おいしくできてるといいんだけれど。ちゃんとキャベツも食べるのよ」
そう言ったお母さんの目と鼻はまだ赤かった。
ぼくはからあげにかぶりついた。きゅう食のよりもファミレスのよりも、お母さんが作ったのが一番おいしいよ。
それに、ぼく知ってるんだ。
天国へ行ったお父さんも、お母さんのからあげが大すきだったってことを。
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台所のタマネギをぼんやり眺めていて産まれた話。オニオンスープのためにタマネギを刻むのが好きです。