誰もが心ときめく新学期。
私も今日から中学三年生。スキップなんかしながら自分の教室に向かう。
ガラリと教室のドアを開けるとそこにはまだ誰もいなくて、しんとしている。
(フフフ…ねらい通りの一番)
窓を開けながら私は微笑む。すると、快い風が教室に入ってくる。
それに合わせ、桜の花びらもひらひらと舞い込んできた。
「おはよう」
そう私に声をかけてきたのは親友の葉子だった。彼女も新学期ということで、早く来たらしい。
新学期って何となくワクワクするもんね。
それからクラスの人気者の佐藤君がやってきた。三人で喋っていると、
見知らぬ女の子が入り口に立っていた。私達がその子の方を見ると、その子は「あっ」
と顔を真っ赤にして去っていってしまった。
「今の子ってクラス間違えたんじゃない?」
「そういえば、去年あんたも間違えてたわよね」
葉子と佐藤君がにやりと笑う。言われてみればそんなこともあった。でも、
葉子と佐藤君がいるから大丈夫だ。
二年から三年は持ち上がりで何一つ変わらないから、見知った顔がどんどんクラスにやってくる。
そして始業のチャイムが鳴る。
「新学期だからか、クラスの外が騒がしいよ。ほら、あんなに廊下に人がいるし」
葉子の言うとおり、廊下はやたらと騒がしかった。
「おい、田口先生遅いな」
いつもはチャイムと同時に来る先生がまだ来ていなかった。
「去年の村上と同じことしてんじゃねえのか」
どっと笑いがおこる。
「先生が来たらからかってやろうぜ」
「ほう。一体何をからかうんだ」
いつの間にか田口先生が来ていた。その表情は決して穏やかではない。
先生は生徒達がからかい出す前に怒鳴った。
「この馬鹿どもが。村上だけでなくお前ら全員で何考えてるんだ」
クラスが突然静まりかえる。
「え? だってクラス替えないから教室も……」
「何言ってるんだ。クラス替えがなくても、教室は変わるんだ。」
生徒と仲の良い田口先生がこう怒っているというのは珍しいことである。
昨年からうちのクラスはおとぼけクラスとして名高かった。
担任の田口先生もそれを気にすることはなかった。だから、いつもなら「お前ら、そそっかしいぞ」
って笑い飛ばしてくれるはずだった。
「二年生が廊下で困っているじゃないか。とっとと三年の教室に行け」
先生は相変わらず厳しい口調だ。
しかし、さっきの子のことも、やけに廊下が騒がしかったのも納得がいった。
おとぼけ田口クラスの面々はぞろぞろと教室を出た。不機嫌な田口先生の所に学年主任の
荒井先生がやってきた。荒井先生はやけににやにやしながら田口先生に言った。
「田口先生の生徒なら絶対やると思っていましたよ。というわけで今晩、お寿司お願いしますね」
もちろん、悲しいのは生徒たちではなく田口先生。これを推敲するたびこんなことは絶対にありえない
と思うのだが、だからこそこういうオチになったとも言える。ちなみに最初この作品のタイトルは「なにか
おかしい」だった。そりゃ、先生が賭けしてるのは「なにかおかしい」けどインパクトないので改題。
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