「大崎君、今日から事務に回って」
部長からそう言われたのは、世間がすでに冬支度を整え始めた十二月始めのことであった。
うちの会社は年末が一番忙しい。ここだけの話を言ってしまうと、
十二月末が営業の勝負で後はほとんど暇なのである。
つまり、この時期に営業から事務に回されるというのは、僕はお払い箱にされたも同然だった。
入社以来七年間、僕は真面目に仕事をこなしてきたと思う。大きなミスはもちろん、
小さなミスもほとんどしたことがなかった。
帰り道、僕は居酒屋に立ち寄った。普段は酒なんて飲まないけど、今日は飲まずにいられなかった。
「大崎さんじゃないですか」
熱燗でちびちびやり始めたとき、後ろから声をかけられた。振り向くとそこに立っていたのは、
僕の一つ後輩で今はイギリス支部に勤めているはずのジョンだった。
「こんなところで何をしているんだ? 君は今忙しいはずだよね」
ジョンは僕の隣の席に腰を下ろすと、生ビールを注文した。
「それが、リストラにあったんです」
僕だけではなかったらしい。僕もジョンと同じような状況だと説明した。
「大崎さんもだったんですか。クビになるのは俺らのような若い人からなんですよね。
定年前のじいさんより俺達の方が何倍も営業に回れるのに」
僕はがんもどきを口に運んだ。
「じいさんの方が経験を積んでるし……それにどうしても客がそっちの方を喜ぶんだよね」
「そうですね。若い人ってあんまり客の受けが良くないんですよね」
店の端に置いてある小さなテレビでは、クリスマス特番をやっていた。
僕たちがこんな目にあっているのに、こんなお祭り騒ぎをやっているとは
恨めしいことこの上ない。
「少子化も困ったもんだよ。昔、家から煙突が消えたときも困ったらしいけどね」
いかんせんショートショートなので、クリスマスネタと豪語して宣伝できないのがツライです。
まあ、クリスマスとかを意識せずに書いたものなのでいいのですが。新聞か何かでイギリスも日本に
劣らず少子化が進んでいると知って、ジョンをイギリス支部にした記憶があります。
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