「まず先にクラス、出席番号、名前を書きなさい」
先生の言葉と同時に、カツカツとシャーペンで文字を書く音が教室中に響く。
俺は自分の目の前にある、今さっき配られたプリントを見てごくりと唾を飲みこんだ。
つらく、苦しい学年末テスト……これが俺の人生の分岐点となるかもしれない。
というのも、今回のテストで俺がクラスメートと一緒に卒業できるか、
それとも来年から今のクラスメート達を「先輩」と呼ばなければならなくなるかが決まるのだ。
これは俺にとって、いや、誰にとっても重大な問題である。
もちろん俺も進級して来年も仲間達と馬鹿をやりたい。何度もそう思って机に向かった。
しかし、学校の勉強というのはどうも性に合わないらしい。
どうやっても勉強に身が入らない。机に向かっていても、
目は教科書を追っているだけで中身が頭の中に入ってこないのだ。
俺の脳裏に「留年」の二文字が迫ってきていた。
もう手段は選んでいられない。
俺は一大決心をした。
カンニングだ。
多少気は引ける。でも、背は腹にかえられない。何としてでも進級しなければ。
カンニングをすると決まったとはいえ、問題となるのがその方法である。
一番楽なのは自分の前後左右に座っている奴の解答を見るというものだ。
しかし、この方法、意外に当てにならない。特に俺のような馬鹿学校に通っている奴には。
カンニングした相手の解答が当たっている可能性は非常に低い。
とはいえ、カンペは教師から見るとバレバレだという噂をよく聞く。
教師の方もカンニング防止のために目を光らせているから余計である。
そこで俺は思いついた。
誰にも気付かれずにカンニングする方法を。
ズバリ点字だ。
点字のシートを机の中に貼る。テスト中に机の中にさりげなく手を入れて文字を読んでいけばいいのだ。
これなら教師から見ても不自然じゃないからばれる可能性は低い。
俺って天才かも……。
早速俺は点訳の仕事をしている姉貴の機械を借りて、教科書を片手に解答を打っていった。
それと同時に点字の読み方も覚えた。
できあがったシートは今、俺の席の机の中にしっかり貼ってある。
キーンコーンカーンコーン♪
試験の始まりを示すチャイムが鳴った。
『第一問 ハワイ王国を統一した王は誰か』
この答えは確かこの辺にあったはず……。
俺は机の中に手を突っ込んでシートをさわった。ぼつぼつした感触が指に伝わる。
しかし、俺はいつまでたっても解答を書こうとしなかった。いや、書けなかったのだ。
この計画は完璧だったはずなのに……。
俺のこめかみに一筋の汗が伝った。
くそっ、どこからどこまでが一文字だかわかんねえ……。
点字を覚えている暇があるなら、勉強を真面目にしろ、といいたいところです。が、不思議なもので
嫌いな勉強は頭にさっぱり入らないのに、そういうカンニングのための知識なら簡単に頭の中に
入ってしまう事があるような気がします。
そもそもこの話は実際に点字でカンニングをした人がいる(成功・笑)という話を聞いて
、普通の少年が同じ事をやったら…?と書いたもの。点字のどこからどこまでが1文字だかわ
からなかったのは私の体験談。
++一言感想フォーム++
←
HOME /
NOVEL
/
SS