ョートショート

勘違い

 俺はふわふわと上の方へ昇っていった。
 俺は今まさに誤って2階のベランダから落ちて死のうとしているところだった。
 かなり情けない死に様になってしまうな。
 でも、毎日平凡でおもしろくなかったし、このまま生きていたって平サラリーマン のまま一生を終わるに決まっているのだ。
 このまま死ぬのも悪くないかもしれない。
 そうしたら、自分の好き勝手に静かに過ごせるに違いない。
 俺はさらに上へ上へと昇っていった。
 上に登り切ると、前方に10人ほど見知らぬ人々が立っていた。 頭の上にリング状の蛍光灯のような輪をつけて、背中にはちょこんと小さな白い羽。 いかにも天使という格好をしている。ただ、額についているマークみたいなのが一人一人違った。
 そのうちの額に『極』と書いてある男がにっこりして言った。
「落手信太さんですね」
 なんで俺の名前を知っているのかはわからなかったが、頷いた。条件反射というやつだ。
 そのとたん、『極』男は名刺を俺の手にねじり込むように押しつけた。
「私は極楽いきいき会社の地佐津という者です」
「はあ……それが?」
「これは亡くなられた方の身元引受会社です。 今までは天界政府が死者の管理をしていたのですが、数十年前にそれが自由化されたのです。 死後も楽しく暮らしていただけますように各社独自のサービスを提供して頂いております」
 後ろの9人が一斉にこくりと頷いた。
 それから『極』男はパンフレットを開いて機関銃のごとくしゃべり出した。
「それでですね、我が社では『ゆったりプラン』と 『わくわくプラン』というのがございまして……」
「はあ」
『極』男は自社のプランについて事細かに説明した。
「……というわけです」
 男が喋り終わると次は『園』と額に書かれている女がしゃべり出す。
「我が『エデンの園』社ではですね……」
「落手さん、あなたは生前サッカーをやっていたそうですね……」
「職人芸などを身につけてみたいとは思いませんか?我が社なら……」
「せっかくなら……」
 一人が終わると次の一人がしゃべり出す。最後の方はそれぞれが好き勝手に喋っていた。
 俺にできたのは相づちのみで、話の内容は右の耳から左の耳へするりと抜けていった。 唯一俺が理解でいたことといえば、彼らの額の文字は会社の印であるらしいということだけだった。
 天国で静かな暮らしは無理かもしれないな。
 俺は天国というところを勘違いしていたようだ。
 しゃべりまくる人達の声をさえぎって、俺は言った。
「あの……俺、現世に戻ります」

 T大学病院、ICU前にて。
「お宅の息子さんはもう大丈夫でしょう」
 ベテラン医師がそう言うと、中年夫婦は医師にぺこぺこ頭を下げた。
「ありがとうございます。信太が逝ってしまったらどうしようかと……本当に先生のおかげです」
「いえ、私だけの力だけではありません。一つは信太さんの意志。もう一つは文明が発達したからです。 おかげでここ10年ほどで蘇生率が一気に上がりました」



 数年前に書いたのを大幅改訂してお送りいたします。原文のあまりの下手さに閉口しました。 そもそも部活の勧誘かなんかをしていて思いついたネタだった気がします。 「俺」の名前は完全なる洒落です。名前考えるの面倒だったので。
 ところで本編の勘違い野郎は医師でしたが、見方によってはセールスの人々も勘違い野郎ですね(笑)。 誰が本当の勘違い野郎なんでしょう?……あ、私か。

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