気づいたのは、公園を過ぎて二つめの十字路を右に曲がった時だった。
人通りのない道の、今しがた点いた電灯の下に一人の僧が立っていた。土気色の肌。ボロボロに破けた袈裟の裾。編み笠で顔はよく見えないが、それが異質だと感じ取れた。
引き返そうにも体が前にしか動かず、なるべく僧から離れて道の端を足早に通り過ぎようとした。
すれ違うその時、突然僧は編み笠を脱ぎ捨てた。ぐわしゃっと血走った目を見開いてこちらに視線を向けると、それまで閉じていた口が耳元まで裂けた。
キュヒョシュギャギャギャシャシャッ。
耳にざらつく声で、僧は肩を揺らして笑い出した。
足がすくんだ。
ねっとり絡み付くそれは、皮膚から吸収されて体の中で暴れ出しそうな気がしてならない。
笑われた。それだけだ。
言い聞かせて、なんとか歩を進める。こだまする声を振り切るように、できるだけ早く。
いつの間にか笑い声がキャハハッと聞こえ慣れたものになっていると気づいてゆっくり振り返ると、女子高生の集団が甲高い声で喋りながら歩いているのが見えた。
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