「ご主人様!今日こそ付けてもらいますよ」
近づいてくる甲高い声に、青年は読んでいた本に視線を落としたまま嘆息した。
「何度言えばいい?私はお前の主人ではないよ。それに、私にはセンスがない」
「そう仰ると思って、今日は候補を考えてきました。古風に花子はどうですか?それとも、洋風なパトリシアとかの方が好きですか?」
「お前は私に名前を付けられるという意味がわかっているのかい?」
「もちろんです。名前を付けていただければ、一生ご主人様に仕えることができます」
青年は中指で眼鏡を押し上げた。
「そこまでして主従関係を築きたいという気持ちがわからないな」
「私は助けていただいた時からあなたをご主人様とすると決めたんです」
「そんなことを言われたら、どれだけの妖の主人にならなければいけないことか」
青年はそこで始めて顔をあげた。目の前でヒラヒラの服を着た小学生低学年程度の少女が両腕で名前辞典を抱えていた。一見ごく普通の少女であるが、奥の鏡に映っていないことから人間とは異なる存在とわかる。
青年は再び嘆息する。
「それ以前に、その姿をどうにかしてもらわないと。ロリコンに間違えられるのはごめんだよ」
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