彼女は右手で自分の髪をなでつけた。
わたしは彼女の動きをなぞるように左手で髪をなでつける。
デート前のせいか先ほどから右を向いては毛先をいじり、左を向いてはピアスをさわりせわしなく動いている。わたしは左右を入れ替える以外は、寸分違わず彼女と同じ動きをする。
それがわたしに決められたことであり、存在意義だから。
彼女は目の前にいるわたしのことを知らない。わたしのことを彼女自身だと思い込んでいる。
世の中で最も息の合った演技なのに。
しかし、時々思うのだ。
鏡の中にいるとされているわたしたちが、外の人たちに合わせているということになっているけれど、本当は逆じゃないのかと。家を出る直前にあれこれやったって大して変わらないのにと毒づきながら、実は彼女にその行動をさせているのはわたしなのではないかと。
だって、わたしは彼女と違う動作をとることもできるんだもの。
その証拠に、目を離した隙にわたしは彼女に向かってあっかんべーをしてやるのである。
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