バスッ。
白球は勢いよくグローブに吸い込まれていった。
「今から無茶するなよ」
相方から球と共に返ってきたのは評価に加えた忠告であった。感覚を確かめるように右肩を回す。それがどんな球になるかは腕を振りかぶった瞬間にわかる。
「わかってるよ」
いかんせんスタミナ勝負の世界。ただでさえ暑さで体力は消耗するのだ。本番前からのペース配分は重要となる。でも、確証が欲しかった。
噴き出る汗を袖で軽く拭ってから一つ深呼吸。さっきのフォームをなぞるように振りかぶり、体重移動を行い、流れに乗って腕を振る。
ドスッ。
「文句なしの重さだな」
あと少しだけ投げ込んでみたいという欲望に駆られたところで、集合の合図が聞こえた。
視線を遠くへやると、スタンドの前の方の席は埋まりつつあった。さらにその奥には、良くも悪くも白球が映える雲一つない青空。
「もう時間か」
「今日はなんとなくいける気がするぜ」
相方のなんとなくは当たることが多い。それが自分の予感を自信へと変える。
「いや、何が何でもいこう」
拳を軽く付き合わせてから、監督の下へ小走りする。
俺たちの最後の夏が始まる。
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