「理解は出来るんだけどね」
それが彼の口癖だった。
「何事も対等な話し合いで解決したい」
彼はそう言うけれど、少しでも意見がすれ違うと、二言目にはお決まりの台詞。それが一度吐き出されると、こっちが何を言っても覆されることはない。人の話を受け入れるように見せかけて、美しく正面から拒絶。
別れ話を切り出すまでに、そう時間はかからなかった。
彼は珍しく不満そうな顔を表に出した。なぜ、私がそんなことを言い出すのかわからない、と。
腑に落ちないことが多すぎる、それは考え方の違いなのかもしれない、でも自分にはそれを受け入れることが出来ない、譲歩してばかりもいられない、例えそれが私の寛容さが足りないだけだとしても。
話をじっと聞いていた彼は、私が一通り言い終えると一つ深呼吸をして口を開いた。
「理解は……」
「理解してくれれば充分よ」
それ以上話し合うのは時間の無駄。
「バイバイ」
私は足早に歩き出す。
ごめんね、私は理解すら出来なかったよ。
背後から私の名前を呼ぶ声がいつまでも聞こえる気がした。
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